平成十七年


年賀状 文字細やかな 百寿の師   1月    湖葉会 定例会
年あらた 囲む八十路の師は百寿
牛若を 抱え加賀路の 霜柱
打つ者も 思ひ思ひの 除夜の鐘
書き初めや 卒中皿に 句を書せり
数え日の 小鷺渋滞 かすめ飛ぶ
気のつかぬ 色つき絵付きの マスクかな
本番は あがらず指揮し 初の夢
気管支に 風邪大敵の 夫婦かな
着ぶくれて 四十キロに 充たぬ妻
天下り 汚職官僚 冴え返る    2月    湖葉会 定例会 
奥飛騨の 宿思ひをり 冴え返る
枯れがれて 草の実続く 車道かな
白魚の フライの記憶 去り難し
改装で 妻の蝋梅 枯れにけり
風邪引きや 鼻擤みちらと 見てをりぬ
蝋梅の 記憶残りて 堀に映ゆ
梅三分 口元ゆるむ 嫗かな
砕石に 草のあちこち 芽吹きをり
だらだらと 不況長びく 余寒かな
目借時 友の曲集 引き寄せる 3月    湖葉会 定例会
松尾神 酔はぬふりして 春灯下
ブレーキの 軋む三叉路 目借時
人柄の 見えぬ技術や 花三分
町角の 梅に思ふや 山の寺
黄水仙 觸れたがりをる 車椅子
弟と ちゃんばら合戦 黄水仙
雛荒らし 同志はみんな 逝きにけり
野良猫と 生きし叔母なり 椿餅
谷間に 雲かと紛ふ あしびかな
家族写真 独り永らひ 霾れり 4月    五季会 定例会
中国の 抗日デモや 四月馬鹿
金の鯱 光て花の 三分咲き
CDに 聞き入るでなし 春の宵
振ふ手で カメラ向けるや 山笑う
笛太鼓 緋襷動く 茶摘かな
緋襷と 蹴出しの紅の茶摘かな
里山を 黄金に染めし みもざかな
娘さん 茶髪ばかりの 柳髪
夕霞 鉄塔ゴジラと 紛ひけり
吹きまくる サハラ砂漠や みどりの日
山里に 金きら人生の 鯉のぼり 5月    五季会 定例会
干梅の 香りほんのり 日暮れ里
CDに 吹き抜けてゆく 風みどり
商ひに 追われし母の日 思ひをり
衣替え した上着を 又も着る
韓国と サッカー同じ 汗の顔
改革の 無き憲法の 記念の日
我が池を 囲みし薔薇の 記憶かな
ふり返り ふり返る吉野 夏霞
夏霞 たどりたどりて 菩薩岩 7月    五季会 定例会
岩狭間 目にしむ松の みどりかな
浮島は 白亜紀のごと 青葉闇
吉野山 ゆけど定めぬ 青葉闇
緑陰の 羅漢の顔は 猫の顔
文月や 字名そのまま 老いにけり
早けれど 採りし夕餉の 白き瓜
水連や 鯉と蜻蛉と あめんぼう
とりどりの 光る水連 雨あがり
水連池 一面光る 雨の玉
噴水に 猫抱きたる 親娘かな
浮浪者の 自転車の荷 沙羅の花
ひまわりの 垂れし地蔵や コーラ瓶
老鶯の しきりに鳴けり 湖の森
―圭二展― 8月    五季会 定例会
火事跡の 薄れし丘の 山ざくら
明けそめし 街を眼下に 花香る
里山の 流れに添ひて 藤の花
丹波道 カメラうつろに 雪降れり
暁天に 凍てる灯台 キャンプカー
せりばおうれん 透かす朝日の 香りけり
夕靄の 白馬の流れ 雪残る
峠道 出会ひし雪の 彩冴ゆる
滝しぶき 逝きにし友を 思ひをり
春雪の 晴れにしカルスト 五千尺
歳ごとに 細くなりたる 氷柱かな
高原の 草の香失せぬ 車百合
白馬の 尾根に輝やく 霧の玉
霧島えびね 庭の洩れ日の まぶしかり
根なし雲 兄上げてゐたる 京鹿の子
神杉の 花とつつじに 囲まれて
ありし日の 友の集ひぬ つつじかな
尼寺跡の 羅漢つつ立つ 霜柱
白やまぶき 黄になりたき 貌となり
落葉踏む ぎこちなき音 丸太橋
生業は 違へど同じ 花下の貌
―了―
お喋りは リハビリによし 残暑かな 9月    五季会 定例会
料亭に 集ふ旧友 秋彼岸
野分け雲 湯巻ひてゐる 日本地図
逝きし子の 笑顔不安の 野分雲
断崖の 良夜待ちをる カメラかな
アベックの フロントガラス 桐一葉
真葛 お医者あそびの 隣りの子
新涼や ほりえもんなる 選挙カー
本堂へ 独り分けゆく 萩のみち
いつまでも 駈けつづける 子等晩夏
CDの 狭間にちちろの 初音かな
名月や 西も東も 陸奥の道 10月    五季会 定例会
虫の音の トイレにしきり 高速路
朝粥の 茶室の桜や 白野菊
赤い羽根 拾ひ見まわす 商店街
右の耳 虫の音左で 笛を聞く
いく度も 振りむく歩道の 石榴かな
湧き上がる 霧の白さや 奥穂高
鉢巻の 子供のつぎし 濁り酒
廃船に 親子の海鵜 秋の暮れ
暮れに入る 農婦輝やく 尾花かな
朝霧や 白神山地の 登り日
篆刻を 終へて一いき 夜長かな
つまづきて 朮に顔の 触れにけり 11月    五季会 定例会
満目の 紅葉に目立つ 老いし松
崖下の 渓流映ゆる 夕紅葉
山辣韭 古刹は遠き 靄の中
綿菅の 穂波ゆらゆら 鳥の声
記念写真 撮り合ってゐる 檀かな
来るたびに ピントの変わる 檀かな
四五本の ひまわり残る 畦日ざし
楷紅葉 くぐりながらの 孔子廟
猫の首 なでをる妻の 草もみじ
友撮りし 写真あまたに 夜長かな
里山を そびらに柿の 黒くなる 12月    五季会 定例会
泡立草 村の空地に 枯れ切らず
萬面に 菊あふれし 田舎墓地
短日の 気になる齢と なりにけり
流行も 慣ひも無縁に 師走かな
夕暮れの 母思ひ出す 川千鳥
気にしつつ 笑ってをりぬ 年忘れ
母の手に ころがってゐる 焼蜜柑
雲脚の 速き枯れ野や 暮れなずむ


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